成形事業におけるDXの考え方
日本の製造業とDXの現状
日本の製造業は、海外と比較して生産性が低いと指摘されることが少なくありません。
その要因の一つとして、DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展の遅れが挙げられています。
DXという言葉は広く使われていますが、その定義は必ずしも明確ではありません。
経済産業省のホームページでは、DXを「デジタル技術によって人々の生活をより良いものへ変革すること」と説明しています。
しかし、製造業、とりわけ成形事業において、具体的に何から着手すべきかについては、
依然として難しい課題となっています。
成形事業においてDXが進みにくい理由
日本の製造業でDX化が進みにくい理由の一つに、老朽化したレガシー設備の存在があります。
成形事業においても同様に、DX化は他分野と比べて遅れているのが実情です。
ただし、DX推進の本質は新しいITツールを導入することそのものではありません。
重要なのは、成形工程から意味のあるデジタルデータを抽出できる体制を構築することです。
成形工程から取得したデジタルデータを活用し、以下のような成果へ結び付けることが、
今後の成形事業の競争力を大きく左右します。
射出成形DXにおける最初の壁
射出成形の製造技術・生産技術において、DX推進の最初の大きな壁は、
「成形プロセスをいかにデジタル化するか」という点にあります。
測定器の導入により一部の測定値をデジタル化することは可能ですが、
成形過程そのもののデジタルデータ取得は決して容易ではありません。
成形機データの限界と金型内現象の重要性
近年の射出成形機は電動化が進み、多数のセンサーが内蔵され、
各種デジタルデータを取得できるようになっています。
しかし、成形機から得られるデータだけでは、
成形過程の本質的な変化を直接捉えるには限界があります。
本来求められるのは、金型内で実際に起きている現象を捉えるデータです。
デジタルデータとAI・CAEの可能性
成形中のデジタル信号を取得できれば、成形ショットごとに多くの数値データが蓄積されます。
これらはAI・機械学習が得意とする領域であり、品質予測や異常検知への展開が可能になります。
さらに、これらの実測データは、射出成形におけるCAE技術の高度化にもつながります。
CAEの限界と実測データの役割
現状では、CAEだけで要求仕様を満たす成形品設計から、
金型設計、成形条件までを完全に導き出すことは困難です。
これはCAE技術の未熟さによるものではなく、
射出成形が「溶融樹脂から固体へと相変化しながら進行する、
極めて複雑な現象」であることに起因します。
金型内センシングによる実践的DX
金型内にセンサーを設置し、溶融樹脂の圧力や温度などの時間変化を取得することで、
実際の成形状態を把握することが可能になります。
これらの実測データとCAE解析結果を比較・検証することで、
金型内現象の理解が進み、実務に即したCAE活用が現実的なものとなります。
IoT活用に必要な技術的知見と投資
ただし、金型にIoTセンサーを設置するだけで効果が得られるわけではありません。
成形品形状、材料特性、センサーの設置位置や方法によって、
得られるIoTデータは大きく異なります。
この領域を実践技術として確立するためには、
一定の開発期間、継続的な投資、そして人材(技術)育成が不可欠です。
DXが生み出す「模倣されない競争力」
自社の成形技術を基盤として蓄積・構築されたIoTデータとノウハウは、
金型構造やセンサー配置、製品仕様が各社で異なるため、
仮に外部へ流出したとしてもそのまま転用されることはありません。
これは、設備を導入すればノウハウまで模倣されてしまう従来の製造設備とは、
本質的に異なる点です。
成形事業DXが切り拓く将来像
こうして蓄積された技術や知見は、他社が容易に模倣できない各社独自の競争力となります。
さらに、それらを基盤としてCAEやAIの本格的な導入・展開を進めることで、
日本の成形事業は持続的な価値創出と国際競争力の強化を実現できると考えます。
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